高校生の結平(きっぺい)は、ある日突然、母親に捨てられた幼い従妹のゆずゆの面倒を見ることになる。結平の家族に囲まれて少しずつ笑顔を取り戻していくゆずゆと、そんな彼女を見守る結平の日常を描いた作品だ。

かわいらしい絵柄の少女漫画でありながら、育児放棄や虐待、結平の彼女・こころの親の再婚という重いテーマを正面から描いている。ゆずゆ以外の登場人物も家庭をテーマに闇を抱えているのが特徴だ。

結平の彼女である「こころ」は親が再婚し、高校生で一人暮らしを始めた。こころも「再婚した親からしたら、自分が邪魔なんじゃん?」と言い放っている。

ゆずゆと同じ幼稚園に通う翔太は母親から暴力を受けている。あざを指摘されると「鉄棒で怪我しただけだよ」と答えて、母親をかばう描写もある。(うろ覚えだが……)

この漫画に出てくる子どもたちは皆、何らかの形で大人の事情に傷ついているのだ。それでも子どもたちは笑い、友達と遊び、恋をする。その健気さがまた胸に刺さる。

一番印象に残っているシーンは二つある。一つ目は、結平の姉が「ゆずゆちゃんに、お母さんなんていないと言いなさい!」と弟に迫る場面を、ゆずゆが目撃してしまうシーンだ。その日から、ゆずゆの記憶の中の母親が、鉛筆でぐちゃぐちゃに塗りつぶされていく。

子どもが傷ついた自分を守るために、一番大切な記憶を自ら消していく。これほど悲しいことがあるだろうか。

ある日、母親の持ち物を無造作に捨てようとしたゆずゆに、結平が「これ、大事なものだろ?」と問いかけた後、ゆずゆは叫んで気絶する。塗りつぶしていたはずのものが、一瞬で溢れてきたのだろう。子どもはそうやって自分を守っている。感じないようにすることで、なんとか立っている。

漫画の内容は、単純な「かわいそうな子どもと悪い母親」という話ではない。

ゆずゆの実母はゆずゆを捨てたわけではなかった。シングルでゆずゆを育てていた実母。蒸発する前、一度ゆずゆに手をあげてしまったことがある。それをきっかけに、これからも暴力を振るってしまうかもしれないと恐れ、一時的に離れることを選んだ。

そして、新しいパートナーの支えを得て、ゆずゆを迎えられる環境を整えてから会いに来たのだ。結平の家族からゆずゆを置いてったと非難される中で、彼女はただ一言訴える。「私はゆずゆを守った」のだと。

大人になった今、その言葉の意味がわからなくもない。自分が凶器になるかもしれないと気づいた時の恐怖、それでも娘を手放したくない気持ちとの葛藤。あの「守った」という言葉には、言い訳ではなく、本当にそう信じていた人間の切実さがある気がする。

その一方で、実母の言い分はゆずゆには届かない。届くはずがない。母親がなぜいなくなったのか、どれほど複雑な事情があったとしても、子どもにわかるのはただ一つ、「お母さんが突然いなくなった」という事実だけだ。記憶を塗りつぶさなければ生きていけなかった夜のことを、誰が癒やせるのだろうか。

実母を責めたいわけではない。しかし、大人の言い分と子どもの傷の溝を埋めるのは難しい。

「愛してるぜベイベ★★」は少女漫画だ。明るくポップな絵柄で笑える場面もある。だからこそ、ゆずゆの叫びが突き刺さる。日常の中に、どれだけ傷ついている子どもがいるか、深く考えさせられる漫画だ。