離婚件数が年間約18万件を超え、ひとり親家庭の2人に1人が貧困状態にある日本。シングルマザーたちが直面する経済的困難の背景には、養育費の不払いという、長年放置されてきた問題がある。

元保育士で現在は保険営業として働くAさんは、パートナーと籍を入れずに出産し、DV被害を受けながら1人で認知調停と養育費調停を行った。弁護士をつけず、育児をしながら制度と向き合い続けたAさんが手にした養育費は、たったの2万円だった。

本記事では、AさんのDV被害から抜け出すまでの過程と、シングルマザーが直面する養育費制度の現実をお届けする。

夢を語る朝活で出会った元パートナー

「素敵な出会いだったんですよ、あの時は本当に」

Aさんは東京都在住の30代。4年制大学を卒業後、保育士になったものの「このままでいいのか」という思いが拭えず、銀座のホステスに転身した経歴を持つ。行動力と人懐っこさを武器に、自分の生き方を模索していた時期だった。

人生の転機となる元パートナーとの出会いは、共通の知人が企画した朝活だった。神社参拝後カフェへ行き、自分の夢を語り合う。そんな朝活の場で、Aさんは元パートナーと知り合った。

元パートナーは理工系の大学院を卒業し、システムエンジニアとして働いていた。その後は不動産投資で複数の物件を持っていたという。自給自足や自然の中での暮らしに憧れを持っていた。そして、朝活での出会いから半年のブランクを経て2人は再会し、交際を始める。

最初はお互いに好きな気持ちがあったが、だんだんAさんは元パートナーの言動に違和感を覚えるように。保育士として発達障害のある子どもたちと関わってきた経験が、その感度を高めていたのかもしれない。

「人間的に変だなという違和感がありました。私の気持ちに寄り添ってもらえないことが多くて。でも好きな気持ちがあったので、見て見ぬフリをしていましたね」

過去を思い出しながら語るAさん

コミュニケーションが噛み合わず、感情を共有しようとしてもどこかすれ違う。それでも「好きだから」と自分に言い聞かせ、違和感に蓋をしていたという。

交際から約半年後、妊娠が発覚する。ほどなくお互いの両親への挨拶を済ませ、同棲を開始した。婚約状態にはなったものの籍は入れなかった。自然が豊かな場所への移住を考えていたため、「移住先で入籍しよう」という元パートナーの提案を、Aさんは受け入れた。

その後、2人は結婚式を挙げた。しかし、式の準備期間中、元パートナーの両親や知人の助言もあったのか、元パートナーは「吉日に入籍したい」と考えるようになっていた。一方Aさんは、「移住してから入籍する」という認識のままだったため、気持ちにすれ違いが生じていた。元パートナーは次第に、「Aさんは入籍したくないのでは」と受け取るようになっていたという。

お互いに本音を伝えきれないまま認識のズレが広がり、十分な話し合いすらできない状態が続いた。Aさんは元パートナーの両親にも相談したが協力は得られず、出産時に必要な父親欄も空白のまま息子を出産。その結果、Aさんは戸籍上「未婚の母」となった。

「面前DV」に気づけなかった自分

出産後、Aさんは1か月ほど実家で過ごした。その間に元パートナーは単身で都内の自己所有物件のアパートに移り、生後間もない息子を連れたAさんもアパートへと移った。しかし、生後間もない息子を抱えた生活は、じわじわと壊れていった。

自然豊かな場所へ移住をするのかしないか、籍を入れるかどうか、決着のつかない問いが、毎日のように繰り返され、元パートナーは大声で怒鳴り、威嚇するように物を床に叩きつけた。子どもに手をあげることはなかったが、Aさんに対しての暴言と暴力は絶えなくなっていった。

そんな生活に限界が来たAさんが実家に息抜きに帰ると、「今すぐ連絡をください」「あなたがやるべきことのリストです」とラインが届き、電話口では一方的に話し続けた。実家に帰れば帰ったで気に入らない。かといって同じ部屋にいれば怒鳴り声が飛んでくる。

逃げ場がなかったAさんは「元パートナーと一緒に過ごした1年間は、まるで10年間の人生を1年で経験したような感覚でしたね」と振り返る。

同居を始めてから2か月ほど経ったある日、移住や今後の生活についての話し合いが朝方まで続いた。元パートナーが先に移住先へ移り、Aさんと息子は夏頃に合流する。そんな案を模索していた。しかし、結局その日も結論は出ず、元パートナーは「籍は入れない」「戸籍上は他人だから、お前も子どもも知らない」と突き放すような態度を示した。

そして夜明け前、Aさんは着のみ着のまま突然外に締め出された。携帯も財布も上着も持たせてくれず、Aさんは近くの交番へ向かい、事情を説明した。警察官はひと言、「それはDVですよ」と言った。

「まったく関係ない人に客観的に言われて、腑に落ちたんです。それまでは、この日常が当たり前だったので感覚が麻痺していたのだと思います。DVだとは気づきませんでした」

さらに印象的だったのは、警察官と言葉を交わす中で気づいたことだ。「当たり前のことですが、会話が成り立つことに驚きました。ちゃんと話を聞いてもらっている感覚があって、『あれ私、人と喋れている』と思ったんです」。それほどまでに、一般的な会話の感覚が麻痺していた。

交番から警察署に移動し、改めて事情を説明すると、「面前DV」の説明を受けた。親が子どもの目の前でDVを行うことは、直接手を上げずとも虐待に該当する。元保育士として大学で学んだ知識が、自分自身の話として突然繋がった瞬間だった。

「子どものために一緒にいようと思っていたのに、その私が子どもにDVをしていることになると言われて衝撃でした」

警察官はその後も、「このままでは児童相談所との面談が必要になる」「このようなパターンは何人も見てきたが、こういう人(元パートナー)は変わらない」など、感情を交えず淡々と現実だけを話してくれた。

Aさんは「警察の方に『逮捕しますか?』と聞かれましたが、子の父だし、一応大切な人だったから『逮捕しなくていいです』と答えてしまいました。もし同じ状況の方がいたら、逮捕した方がいいと思います。調停や裁判、強制執行など法的に戦う際、逮捕歴があるかないかで、周りの反応が変わるので」と話す。

その後、強制引き離し措置が取られ、数人の警察官とともにアパートへ戻り、母子手帳と身分証、そして息子を抱えて、パトカーで実家に帰りやすいかつ、警察署の近くの駅まで送ってもらった。

元パートナーは最後まで冷静を装い、玄関には上着と靴が出してあった。「こういうことはするんですね」と淡々と警察官に言われ、それが優しさではないことに、Aさんはようやく気づいた。

未婚の母を待ち受ける認知調停と養育費調停

実家に戻ったAさんを待っていたのは、安堵ではなく膨大な手続きと深い混乱だった。

別れてから数週間後、元パートナーから「謝りたい」とも受け取れるような連絡が来て一度会ったが、蓋を開けてみれば相手はAさんからの謝罪を待っていた。元パートナーの方が、まるで被害者のように振る舞っていたという。

2人は婚姻関係がないため、離婚して養育費を請求する道は最初から存在しない。まず子どもを元パートナーの子として認めさせる「認知」の手続きから始めなければならなかった。

当初、元パートナーは認知を拒否した。AさんはDNA検査を申し立て、その費用5万円を1人で負担した。

ところがDNA検査の結果が出る前後のタイミングで、元パートナーから突然「認知する」と電話が入った。「任意認知の方が養育費を安くできると調べたんだと思います。何をするにも、1周回って自分のためなんです」とAさんは淡々と話す。それでも手続きはすでに進んでおり、最終的には強制認知として確定した。

認知が確定したが、そこからすぐには動けなかった。行政とのやりとりや役所への手続き、そして生後間もない息子の育児。寝不足と疲労の中で半年ほどが過ぎた頃、ようやく養育費の調停を申し立てた。

調停は月に1回しか開かれない。調停委員を選ぶことはできず、和解に誘導されやすい傾向がある。Aさんは弁護士なし、息子の育児をしながら1人で調停に臨んだ。

調停の際に、元パートナーの確定申告書の提出を求めても、確定申告は自分で操作して収入をゼロにできてしまう現実があり、弁護士なしでは突っ込んだ追及が難しい。「養育費を高く取りたいなら弁護士を挟んだ方がいいですね。でも払わない人は払わないので」とAさんは苦笑いする。

幼い息子を育てながら1人で調停に挑んだ

DVの当事者であるAさんは、相手と同じ空間にいる必要がなく、自宅からビデオ会議で調停委員と話す形式が認められた。元パートナーは裁判所に出向き、Aさんは自宅から参加する。

まず調停委員がAさんと30分話し、次に裁判所内の一室で元パートナーが30分話す。その間Aさんは待機し、また自分のターンが来るのを待つ。

2人が直接顔を合わせることはなく、調停委員だけが双方の言い分を行き来する。このループが1回の調停の中で繰り返される。

相手が話している時間に、Aさんは携帯でシングルマザーのコミュニティに状況を投げかけた。

「『調停委員にこんなことを言われたんだけど、みんなどうしている?』と聞くと、仕事中だろうに、その場で返事をくれるんです。『それは甘い、もっとこう言ってみて』って。『わかった、次のターンで言ってみる』と助けてもらいながら調停を進めていきました」

ただし、調停委員にも当たり外れがある。Aさんの担当は「お子さんのためにも面会を」という方向に持っていく傾向があったという。「絶対に無理だと決めていることには、自分から先に釘を刺しておかないと流されてしまう。本当にしんどかったのはそこだったかもしれません」と話す。

調停の場で元パートナーは、うつ病の診断書とASD(自閉スペクトラム症)の診断書を持参した。息子のためでもAさんのためでもなく、養育費の減額を求めるためだ。

後に弁護士から「うつの診断書はお金を払えば誰でも取れる」と教えられた。ASDについては、Aさんも「やっぱりそうだったか」と腑に落ちた部分があった。付き合い始めた頃からの「気持ちが共有されない感覚」は、こういうことだったのかと。

こうして弁護士なしで調停を乗り切ったAさんだが、1人でここまで戦えた背景には、情報を能動的に集め続けた努力があった。インスタグラムでシングルマザーのコミュニティを探し、似た境遇の人に直接DMを送って話を聞いた。

弁護士の30分無料相談も積極的に活用した。区が提供する無料の相談窓口にも通い、担当の相談員と隔週で話す時間が、事実と感情を整理する場になっていった。

「役所は、本当に危険だと判断されないと制度を教えてくれません。なので、情報は自分で取りに行くしかありませんでした。ただ、役所に相談した日時や内容が、後に証拠として使えることも知りました」と話すAさん。

この言葉は、同じ状況に置かれているすべての人へのエールでもある。

月額2万円で子どもを育てられるのか

調停の末、養育費の月額と支払い期限が決まった。しかし、それが守られることはなかった。

入金がなければ裁判所の担当者から連絡が入る「履行勧告」という制度がある。しかしこれは、相手に「払ってください」と伝えるだけで、強制力は一切ない。

結局Aさんがこれまでに受け取った養育費は、合計2万円だった。

ある時、元パートナーから「養育費を払えないのには理由があります」と連絡があったが、Aさんは返信をしなかった。そして翌月、口座に入ってきたのは約束の金額ではなく1万円だった。再度履行勧告を依頼し、しばらく待ったが、入ってきたのはもう1万円だけだった。

その後、弁護士に相談する中で、元パートナーが以前一緒に住んでいた物件を売却していたことが判明した。Aさんがその事実を知ったのは、売却から2か月近く経ってからだった。これで元パートナーに対して、差し押さえできる財産は消えてしまった。

「今思えば、あの『払えない理由があります』という連絡は、物件を売り切るまで引き延ばすためのセリフだったんだと思います」

養育費の支払いに強制力がない現状は長年指摘されてきた。2026年4月、離婚時に養育費の取り決めがなくても、子ども1人あたり月額2万円を請求できる「法定養育費制度」が施行された。強制執行の手続きも大幅に簡略化され、長年問題視されてきた不払い解消に向けた一歩となる。

ただし対象は2026年4月以降に離婚したケースに限られており、Aさんのように制度施行前にすでに別居・調停を終えたケースには適用されない。また同年4月には共同親権制度も施行されたが、DV被害を受けた側への影響については不透明な部分が残る。「相手と共同で親権を持つことになったら、私たちのケースはどうなるのか。全然見えない」とAさんは語る。

そして月額2万円という金額そのものへの疑問も根強い。物価高騰が続く中、1人で息子を育てるAさんにとって、その数字はあまりにも遠い現実だ。「月額2万円で子どもを育てられるわけがない。子どもが第一と言うなら、まず現実を見てほしい」。Aさんの言葉には、静かな怒りが滲んでいた。

「いつかは終わりが来る。これだけは言えます」と話してくれた

最後に、Aさんはこう話した。

「教育に携わってきた自分でも、DVの渦中にいる時は気づけませんでした。これ以上傷つかないように心のバリアを張っている状態なので、何を言われても入ってこないんです。だから本人より、周りの人に気づいてほしい。携帯を取られていたり、連絡を遮断されていたりする人もいるので、本人に届かなくても言い続けてほしいです」

弁護士なしでは太刀打ちできない場面が随所にあり、情報を持つ者と持たない者の間には、今も深い溝がある。法律が整備されても現実とのギャップは大きく、制度を使いこなせる人だけが救われる構造は変わらない。

声を上げられない人は今もどこかにいる。Aさんの語りが、必要としている誰かに届くことを願う。


「私も不安でいっぱいだった時期に、話を聞いてもらえるだけで、目の前の疑問が1つ解決するだけで、どれだけ心が軽くなったかわかりません。今度は私がそのお手伝いができればと思っています」と話すAさん。

同じ状況かもしれないと感じた方、まず誰かに話したいという方は、お気軽に本メディアまでご連絡ください。個人情報をしっかり守りながら、ご希望の方のみAさんにお繋ぎいたします。

この記事を書いた人







フォスター詩織

Kotonohaメディア代表。声なき声をすくい上げ、社会へ届ける活動を軸に執筆を行う。多様な生き方と価値観を尊重し、共感と気づきを生む記事制作に尽力中。