「何を聞けばいいか分からない。質問が出てこない。1時間の取材に30個の質問を用意して臨んでいました。でも、それは取材じゃなかったなと。余裕がなかったんですよね」
そう話すのは、「コトノハライタースクール」を主宰するシェリーさん。農業高校、畜産業界出身、全くの未経験から新聞記者になり、今はフリーの取材ライターとして活動している。
「これからを生きる世代の方や、ママさんに自信をもって欲しい。子育てをしながら社会とつながっていけるスキルを伝えていきたい。女性が社会に出て働く一助にできたらいいなと思っています」
そんなシェリーさんに、今に至るまでの道のりと、スクールに込めた想いを聞いた。
「何を聞けばいいのか分からなかった」記者時代
——新聞記者として働いていたときのことを教えてください。
シェリーさん:最初の半年間は、基本的なことが全然できなくて悔しい思いをしました。
私が飛び込んだ新聞社は、研修が一切存在しない職場でした。入社してすぐに「じゃあ、行ってきて」といきなり現場に出されてしまって。何を質問すればいいのかも、どうやって企画を立てればいいのかも、記事のルールすら分からない状態でした。
取材の直前は、毎回お腹が痛くなりました。毎日取材をして、毎日記事を書いているのに、半年以上まともに書けなかったんです。
目の前にいる相手をちゃんと見ていなくて、手元のメモにある「次の質問」をこなすことに必死でした。対話ができていませんでしたね。
——取材を続ける中で、ご自身の中で何が変わりましたか?
シェリーさん:人への興味が、圧倒的に増しました。当時の私は、他人への興味が薄かったんだと思います。
友人に対してなら、話を聞いて「それでどうなったの?」と自然に言葉が出てくる。なのに、初対面の人に対しては、何を聞けばいいのか分からない。
だから、完璧に用意していかなければと思い、質問の引き出しを逆に狭めてしまっていました。それが今では、質問もポンポン出てきます。「取材って楽しい」と思えるほどになりました。取材には、人を根本から変えるほどの力があると、身をもって感じています。
畜産業界からライターへ。遠回りも武器に
——もともとライターとは全く縁のないキャリアをたどられていますね。最初のお仕事は畜産だったとか?
シェリーさん:農業高校出身で、一時期は馬術部に入っていたくらい動物が好きでした。高校を卒業してからは養豚場で働きました。妊娠しているお母さん豚のお世話もしましたね。難産になったときに、産道に手を入れて赤ちゃんを引っ張り出す。そんな貴重な経験もしました。
18歳の頃は「ずっと農業の仕事で生きていく」と思っていました。自分のやりたい仕事は農業や畜産だと信じて疑わなかったです。
——そこからライターへ転身されたのは、どういった経緯があったのでしょうか?
シェリーさん:畜産の仕事は、365日24時間。2日連続で休みを取ることすらできない。体力勝負な上に、危険な薬品を扱うこともあるので、女性は妊娠したら辞める雰囲気でした。先輩たちを見ていても「女性が長く続けられる仕事ではないかもしれない」と感じていました。
私は、ワーキングホリデーや留学で海外に滞在していたこともあって、海外旅行が大好きなんです。でも、会社員だと長期旅行のたびに仕事を辞めなければいけない。「フリーランスになれば、世界中どこにいても仕事ができるんじゃないか」と考えました。
そんなとき、海外滞在中に旅の出来事を書いていたブログやTwitterを見た友人に「面白いから、ライターに向いているんじゃない?」と言われたんです。私自身はライターという仕事にあまり興味がなかったのですが、友達がそう言うなら面白そうかもと思い、Webライタースクールに入りました。
——そこからどうして新聞記者になったんですか?
シェリーさん:将来的に、フリーの取材ライターになるために「まずは、新聞記者として1年間修行しよう」と思ったんです。ちょうどライターを勧めてくれた友人が新聞社で働いていて。その子の異動に伴って空きが出て、「よかったら受けてみたら?」と紹介してくれたんです。
オンラインスクールでWebライターの勉強はしていたものの、書く仕事の経験はゼロ。それでも挑戦したところ、未経験ながら採用していただきました。
——農業の経験が、取材の仕事に活きた場面はありましたか?
シェリーさん:はい、すごくありました。新聞記者を辞めた後、農業専門の求人広告のライターになったのですが、動物用医薬品の製薬会社の社長さんに取材する機会があったんです。
正直なところ取材の序盤はすごく怖いんです。犬や猫などのペットから、日本の食を支えている牛や豚などの畜産動物まで、どんな薬が動物のためになるか開発・営業しているので、職人気質というか、命をかけているんですよね。
でも私が「以前、養豚場で働いていました」と言った瞬間、その方の眉間のしわがスッとほぐれて、顔がニコッとなる。過酷な現場を知っているからこそ、相手の苦労が分かり、通じ合えるものがありました。自分の経験が相手の心の扉を開いて、本音を引き出せた瞬間は、本当にうれしかったです。
母が泣きながら帰ってきた日が、原点になった
——スクールを作ろうと思ったのはなぜですか?
シェリーさん:取材ライターには「正解のマニュアル」がありません。いきなり1人で取材に行き、初対面の方から話を聞いて記事を書くのは、本当にハードルが高いです。
かつての私がそうだったように、最初は「何を聞けばいいのか分からない」と1人で迷い、模索する日々が続いてしまう。そうすると、形にするまでにものすごく時間がかかってしまいます。
だからこそ、私が現場で泥臭く学んできたスキルやノウハウをお伝えすることで、「取材を楽しめる人」を増やしたいと思ったんです。
あとは、女性のライフステージが変わっても、長く働き続けられる仕事として、「取材ライターを知ってほしい」という気持ちもありますね。
——女性の働き方に対して、そこまで強い想いを抱くようになったのには、何かきっかけがあったのでしょうか?
シェリーさん:幼少期に、ある事情で家計が急に苦しくなってしまったことがありました。当時専業主婦だった母が、パートをしようとコンビニの面接に行ったんですが、「女性でそんな体型では、重いものも持てないでしょう」と言われ断られてしまって。
母はすごく痩せ型で、そのことを理由に仕事を断られたんです。泣いて帰ってきて。「なんで働きたいのに、見た目や性別だけで断られないといけないの」という言葉が忘れられませんでした。
——そのときの経験が、その後のご自身のキャリア選択や、今のスクール理念にも影響を与えているのでしょうか?
シェリーさん:間違いなく影響しています。その後、自分が社会に出てからもずっとその問題に直面し続けました。養豚場では、本人が仕事を続けたくても、妊娠を機に退職せざるを得ない女性たちを何人も見ました。
新聞社にも女性記者はいましたが、大きな事件があれば深夜でも呼び出されるし、転勤もある。子育てをしながらでは、書きたいジャンルの記事を諦めざるを得ない現実がありました。
「女性が、自分らしく、長く続けられる仕事ってなんだろう」という問いが、ずっと頭の中にあったんです。その答えの1つが「取材ライター」でした。
——取材ライターは、女性に向いている仕事だと感じますか?
シェリーさん:すごく向いていると思います。取材は、声のトーンが変わったとか、表情がほんの少し曇ったとか、そういうわずかなサインに気づけるかどうかも大切なんですよね。女性の感受性や共感力、洞察力が、力を発揮すると感じています。
あと、子どもが学校に行っている間にオンラインで取材できたり、週1からでも始めることができる。ベビーカーを押しながら立ち寄るカフェのオーナーさんに「少しお話きかせてもらえますか」と声をかけるところから始めることもできるんです。
ママや主婦の方が、今の生活を大きく変えずに、一歩踏み出せる仕事だと思っています。
失敗も、迷いも、共有できる仲間でありたい
——コトノハライタースクールならではの特徴を教えてください。
シェリーさん:一番こだわっているのは、少人数制です。最大4名にしているのも、できるだけ1対1でしっかりと皆さんのことを理解して向き合いたいから。取材前に緊張していたら「現地に行く前に電話で話そうか」なんてことも普通にやります。
失敗もシェアして欲しい。かつての私が「誰も教えてくれない」と感じた経験があるから、フラットに何でも相談できる「1人にさせないスクール」にしたいと考えています。
——卒業制作で記名記事が書けるとは、どういう仕組みでしょうか?
シェリーさん:フリーランスの世界は、実績がないと応募しても落とされてしまう。でも実績を作るには仕事を受けないといけない。この矛盾に、駆け出しの頃はみんなぶつかります。だから自身のメディア「Kotonohaメディア」と連携して、卒業制作として実際に取材を行い、記名記事を世に出せる仕組みにしました。
企画書の作成、取材アポ、当日の取材、記事執筆まで、一連のプロセスをすべて経験した上で、ポートフォリオに載せられる記事が手元に残る。ここが、他のスクールとの一番大きな違いだと思っています。
——卒業後の関係性についても教えてください。
シェリーさん:「卒業したらさようなら」は、私の性格的に絶対にできません。先生と生徒という関係も、終わったら外したい。正解がない仕事だから悩みは尽きないし、そういうときに「あの人に相談しよう」と思ってもらえる存在でいたい。
仲間、という感覚が一番近いですね。教えることで私自身も人への興味がさらに深まって、すごく学ばせてもらっています。受講生同士の交流も作っていき、濃い関係を育んでいければうれしいですね。
世界が広がる、取材ライターという仕事
——昨今、取材ライターへの注目が高まっている印象があります。
シェリーさん:AIが普及して、SEOの記事はAIがほぼ書けるようになってきました。でも、人の話を聞きに行って、感情で話を引き出す仕事はAIにはできません。人間にしかできない仕事が取材だと思っているし、これからの時代にもなくならない仕事だと思っています。
——取材ライターになって、受講生の方が得るものはスキルだけではない?
シェリーさん:そう思います。取材は、自分だけでは絶対に出会えなかった世界に飛び込める仕事。スモッキング刺繍の職人さん、動物用医薬品製薬会社の社長さん、地域のパン屋のオーナーさん。
その人の人生の思いを聞かせてもらうたびに「こんな世界があったんだ」という驚きがあるんです。いろいろな方の人生の話が聞けて、視野が広がります。
——スクールにはどんな方に来てほしいですか?
シェリーさん:諦めない人、努力を楽しめる方に来てほしいです。結果が出るまでに1年以上かかることもあります。でも続けた人が残っていく世界でもあるんです。
私も高卒で畜産業界出身。そこから今に至っています。臨機応変に、新しい世界で頑張ることにワクワクできる人は、取材の仕事が合うんじゃないかと感じています。少しでも興味を持ってもらえたら、一歩踏み出してほしいですね。
取材後記
「シェリーさんに出会わなければ、取材ライターという仕事があることすら知らなかった」
取材を担当した筆者は、シェリーさんの受講生でもある。ライターという仕事自体知らない、完全な未経験からのスタートだった。シェリーさんの講座を通じて、一つひとつの案件に真剣に向き合い、実績を積んできた。
その背景には、講座卒業後も変わらずに支えてくれるシェリーさんのサポートがあった。
フリーランスは1人でもできる仕事だからこそ、すぐに頼れる人がいることは心強い。正直、今でも取材の前は緊張する。でも、「この仕事に失敗はない」と教えてくれたシェリーさんの言葉がいつも背中を押してくれる。
普通の主婦だった筆者が、知らない人の人生の話を聞くことの楽しさを知り、世界が少し広がった。
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この記事を書いた人

森田かえ
教育・子育て・暮らしを中心に執筆する取材ライター。人の想いや背景を丁寧に聞き取り、言葉にすることを大切にしている。 子どもや家族、地域にまつわるテーマを軸に、読み手の暮らしに届く文章を書いている。
