日本では、およそ3組に1組の夫婦が離婚するといわれている。また、ひとり親世帯の相対的貧困率は約45%と高く、経済的な不安だけでなく、「誰にも相談できない」「同じ境遇の人が周りにいない」と孤立を感じながら子育てをしているシングルマザーは少なくない。

「もしあの頃の私に、安心して話せる場所があったなら」

そう語るのは、一般社団法人シンママラボ代表の佐藤笑美里さん(以下、笑美里さん)だ。25歳でシングルマザーになった笑美里さんは、離婚や調停など、同じように悩む女性たちが、安心して本音を話せるオンラインコミュニティ「LINQURE(リンキュア)」を運営している。

本記事では、笑美里さん自身の歩みをたどりながら、シングルマザーが抱える「孤立」という見えにくい課題をひもとき、本当に必要とされる支援のあり方を考える。

離婚を決断するまでの葛藤

「毎日、『離婚したい。でも本当にこれでいいのかな』と、離婚のことばかり考えていました」

そう振り返る笑美里さんの表情は穏やかだ。しかし、その穏やかな口調とは裏腹に、当時の葛藤の深さが、その一言から静かに伝わってくる。

一般社団法人シンママラボ代表の佐藤英美里さん

24歳で結婚し、25歳で娘を出産。母親になり新しい生活が始まったが、娘が生後10か月を迎えた頃には、夫婦間で信頼関係を築くことの難しさを痛感するように。加えて産後のストレスと体調不良も重なっていった。

当時は育休中だったこともあり、環境さえ変われば何かが変わるのではという迷いもあったが、最終的には、離婚して1人で娘を育てていく道を選んだ。

ただ、離婚を決めるまでの日々は、決して穏やかなものではなかった。

25歳での出産は、大卒の同級生の中では早い部類に入る。周囲は30代で結婚・出産する友人が多かった。

「友達に話は聞いてもらえましたが、相談となると難しくて。同じ境遇の人が周りにいませんでした」

両親にも、ぎりぎりまで打ち明けることができなかった。「心配をかけたくなかった」という思いが、余計に彼女を1人で抱え込ませていたのだろう。

それでも、いざ両親に伝えて返ってきたのは、責める言葉ではなかったという。

「何かあったら、すぐ戻っておいでと言ってもらえました。離婚届を出したら、何かが大きく変わると思いましたが、実際変わったのは名字くらいでしたね」

住む場所も、子どもとの向き合い方も、全てこれから自分がどう動くかにかかっている。そのことに気づいたのが、後のキャリアと事業を貫く、笑美里さんにとって最初の転機だった。

離婚後にキャリアを構築

離婚後の笑美里さんの手元には、キャリアと呼べるものも、資格と呼べるものも、まだ何もなかった。当時は旅行会社に勤めており、育休中だった。しかし、復職を控える中で、このままの働き方を続けることに迷いを感じていた。

旅行会社は個人情報を扱う仕事という性質上、リモートワークは難しい。さらに、コロナ禍前という時代背景もあり、柔軟な働き方を選べる環境ではなかった。

子どもとの時間を大切にしながら働き続けるには、新しい働き方が必要だ──。そう考えた笑美里さんは、復職後に転職活動を始め、IT系のWeb制作会社へ活躍の場を移した。

Web制作会社ではWebデザイナーとして約2年働いた。この頃にはリモートワークも実現し、副業にも挑戦できるようになっていたという。少しずつ自信がついてきたころ、ひとり親支援に向けて何かしたいという思いが芽生えてきた。

その背中を押したのが、転職の際に受けたキャリア相談の経験だった。

「友人に相談することはあっても、自分の話を延々と語る機会はそうそうないですよね。このキャリア相談の経験がとても印象に残ったんです」

いつか自分も、誰かの話を聞ける存在になりたい。そう考え、次は人材紹介会社に転職した。コーチングの勉強も並行して進めていたという。

Web制作の仕事で土台を築き、人材紹介会社でのキャリアを次のステップとして重ねる。人の話を聞くスキルを磨きながら、「LINQURE」立ち上げへと歩みを進めていった。

愛娘との絆を感じさせる一枚

その後、女性の活躍支援によりつながる場を求めて、ベビーシッターや家事代行サービスを手がける企業へと転職する。会社員として働きながらLINQUREを運営する、今のスタイルはここで固まった。

「転職する前には必ず副業ベースで勉強してから動く」というのが、笑美里さんの一貫したやり方だ。異業種への転職であっても比較的スムーズに進められたのは、この段取りのおかげかもしれないと振り返る。

「離婚した当初は、『娘にかっこいい』と思ってもらいたかったんです。1人で育てていく以上、働くことはどうしても避けられない。それなら、嫌々働く姿ではなく、誇れる姿を見せたいなって」

その思いが、25歳から30歳までの5年間を突き動かしていた。転職と異業種への挑戦、そしてライフイベントが重なり合った、「まさに濃密な5年間だった」と笑美里さんは語る。

シンママをポジティブな選択へ

LINQURE立ち上げの原点は、笑美里さん自身が離婚した当初の経験にある。

今でこそSNSでシングルマザーとして発信する人も増え、以前より情報を得やすくなったが、それでもまだ、後ろめたさを覚えたり、心ない言葉をかけられたりする場面は残っているという。

その1つが、就職活動の場面だ。

未就学児を育てるシングルマザーは、送り迎えや保育園からの呼び出しがあるだろうと見られ、採用の場で不利に働いてしまうことがある。子育てへの理解は少しずつ進んでいるものの、こうした見方は今も根強く残っていると感じているそうだ。

また、子どもが2歳になる前に離婚するケースは少なくない。

子育てへの向き合い方は、実際に子どもが生まれないと分からない部分が大きく、産後の心身の変化と重なって、夫婦のすれ違いが深まりやすい時期でもある。ここでうまくコミュニケーションが取れないと、離婚という選択に至りやすいのかもしれない。

同時に、2歳前後はまだ目が離せない時期で、フルタイムで働きたくても働けない、残業ができないといった制約が重なりやすく、当事者を取り巻く環境の厳しさがあると指摘する。

「あと、テレビドラマや報道で描かれるシングルマザーは、事情を抱えた人物として扱われることが多いですよね。そうした情報の積み重ねが、『シングルマザーは大変』『シングルマザーはお金がない』など、価値観を形づくってしまっているのではないかなと思います」

笑美里さん自身も、離婚する前は同じようなイメージを抱いていたという。日々前向きに頑張っている当事者の姿は、ニュースやドラマではなかなか取り上げられにくいのが実情だ。

だからこそ、笑美里さんが掲げているビジョンは「シンママをポジティブな選択へ」だ。以前から、ずっと心の中に持ち続けてきたテーマだという。

離婚は、人生において1つの通過点に過ぎない。このように捉え方を変えていけたらという願いを込め、LINQUREを立ち上げた。

シングルマザーの居場所づくり

LINQUREでは、入会にあたって審査制を取り入れている。しかし、無料で誰でも参加できる形にすると、安心して話せる場を守りきれない懸念があった。元パートナーからモラハラやDVを受けていたケースでは、危険な相手が紛れ込んでくる可能性もゼロとは言い切れない。

オンラインやオフラインで交流している

「調停や家庭のことなど、かなりプライベートなことを話す場なので、そこは安心できる環境をずっと保っていきたいと思っています」

そこで、最初の参加時には必ず顔出しをしてもらうという審査制を採用することにした。参加のハードルは上がるものの、安全のためには譲れない部分だ。入会後は、交流会などでカメラをオフにしても問題ない。

会員の約3割は、これから離婚を控え、調停への向き合い方や情報交換を求めて参加しているという。

手続き自体は調べれば分かることも多いが、実際に調停で何を話したか、どんな点に気をつけたかといった体験談は、当事者同士でなければ共有しにくい。そうした生の声を交わせることも、コミュニティならではの価値だと笑美里さんは話す。

弁護士との連携も、こうした思いの延長線上にある。専門家への橋渡しに加え、お金に関する基礎知識を身につけてもらうため、ファイナンシャルプランナーによる講座も開いている。いずれも参加者の費用負担はない。

運営で大切にしているのは、支援する側とされる側という関係に固定されないことだ。LINQUREのキャッチコピーにもなっている「応援し合うコミュニティ」という言葉には、その姿勢が表れている。

「支援を受け続けると、どうしても自分は支えられる側なんだという気持ちになってしまいます。なので、コミュニティの中で自分が発信したり、自分の経験を話したりすることが、誰かの役に立てるという実感につながればいいなと」

苦しかった経験を持つ人だからこそ、寄り添える言葉がある。そして、その言葉を受け取った人が、また別の誰かに手を差し伸べていく。そんな温かな循環が、LINQUREには生まれている。

調停や裁判を控えて精神的に追い詰められがちな時期には、「これから調停に行ってきます」といった何気ないやり取りを交わすだけで、気持ちが軽くなったと話してくれる会員もいるそうだ。

シングルマザーの孤立をなくす

LINQUREの運営を通して、笑美里さんが繰り返し向き合ってきたのが、ひとり親家庭を取り巻く社会課題だ。

「ひとり親の方の課題は大きくは2つあると思っています。1つは金銭的な問題、もう1つは精神的な孤立や孤独です」

仕事面については、行政によるキャリア相談や職業訓練など、支援の枠組み自体は整いつつある。

しかし、養育費に関しては事情が異なる。今年4月に一部法改正があったものの、未払いが起きた際の実効性という点では、まだ十分とは言えない状況が続いている。

この背景には、「自己責任」という言葉で、個人の問題として片付けられがちな風潮があるのではないか、と笑美里さんは考えている。

「ひとり親の貧困は、そのまま子どもの貧困につながります。養育費は本来、子どものためのお金なので、そこはもっと子どもたちに平等な機会があるべきではないのかなと」

金銭面の根っこには、女性の賃金格差という、さらに根深い課題も。子育てをしながらキャリアを積みにくい構造や、日本に根強く残る男女の賃金差。女性が働いて十分に稼げる社会になれば、離婚を経験した家庭が貧困に陥るケースそのものが減っていくはずだ。

一方の精神的な孤立については、行政による支援が届きにくい領域だという。友人に相談することはできても、同じ立場でなければ共感は得られない。「話せる相手がほしい」という声は、LINQUREの会員たちが口を揃えて語ることだそうだ。

もっとも切実なのは、支援を必要としている当事者ほど、声を上げる余裕すらないという現実だ。忙しい日々の中で、自分の困りごとを言葉にして発信する余力を持てない人は少なくない。

「本当に大変な当事者だからこそ、声を上げる暇もないんです。そうした人たちの声を、ちゃんと社会に届けていくことが、この活動を通してやりたいことの一番大きな部分です」

その言葉には、LINQUREという場を作った、笑美里さんなりの原点が滲む。

もう1つ、子育てに対する社会の温度差も課題だ。

娘とともに南米やトルコ、ヨーロッパなど各国を旅する中で、子連れに対して優しく接してもらえる場面に幾度となく出会ってきた。

ベビーカーを押すのを手伝ってもらったり、電車内で席を譲られたりすることも多く、日本と比べて子育てをしやすい空気を感じることが多かったそうだ。

もちろん観光客という立場ゆえの側面はあるとしても、この違いはどこから来るのか。笑美里さん自身、今も考え続けているテーマだという。

行政とつながる支援を目指す

LINQURE立ち上げから今に至るまで、笑美里さんが大切にしてきたのは、声を上げる余力すらない当事者の声を社会に届けることだった。今後についても、その軸は変わらない。

「行政や地域の他の団体と連携しながら、制度や仕組みづくりの部分をもっと良くしていきたいですね」

1団体だけでは活動の広がりに限界がある。だからこそ、他団体と手を取り合い、支援の枠組みそのものを変えていきたいと語る。

「私も離婚後より、離婚する前がとてもつらかったです。今つらい方、不安を抱えている方は、LINQUREでも、周りの誰かでもいいので、相談できる人を持ってほしい。何か思っていることを言葉にしてみることは本当に大事なので、1人で全部抱えずに相談してみてください」

離婚は終わりではなく、人生の1つの通過点に過ぎない。1人であっても、誰かに頼りながらでも、自分らしく輝いていける。笑美里さんの姿は、その事実を証明してくれた。

この記事を書いた人

フォスター詩織

Kotonohaメディア代表。声なき声をすくい上げ、社会へ届ける活動を軸に執筆を行う。多様な生き方と価値観を尊重し、共感と気づきを生む記事制作に尽力中。