前編では、有限会社AHKの取締役、そして公益財団法人 草の根事業育成財団 事務局の長谷直人さん(以下:直人さん)の原点と、子ども倶楽部ハウスでの活動の様子をお伝えした。
後編では視点を広げ、不登校を取り巻く社会課題と、支援の現場で見えてきた課題、そして悩みを抱える保護者へ向けたメッセージをお届けする。
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子どもと親の悩み
不登校は、子ども本人にとっても保護者にとっても、日々さまざまな困難を伴う。現場でよく見られる悩みを整理してもらった。
子どもたちが直面しやすい困難
まず挙げられるのが、自己肯定感の低下だ。「行きたくても行けない」「みんなは行けているのに自分は行けない」「周囲に迷惑をかけている気がする」。外からは元気そうに見えても、内側では「自分はダメだ」「頑張れない人間だ」と感じている子は少なくない。
学校を休む期間が長くなれば、「授業についていけるだろうか」「進学できるだろうか」という学習面での不安も強くなる。特に中学生は、進路への不安を抱えやすい傾向にあるという。
友人との接点が減ることによる孤立も大きい。「誰にも会いたくない」と思う一方で、「会いたいけど会えない」「久しぶりに会うのが怖い」という葛藤を抱え、孤独を感じながらも自分から動くエネルギーが出ないケースもある。

これらが重なると、昼夜逆転や睡眠不足、食欲低下、運動不足といった生活リズムの乱れにもつながっていく。不登校そのものが原因というより、こうした困難の結果として表れることも多い。
年齢が上がるほど強くなるのが、将来への漠然とした不安だ。高校はどうするのか、就職できるのか。ただし、直人さんはこう付け加える。
「終身雇用が当たり前ではなくなり、転職に対する見方も和らいだ今の社会においては、以前ほど当てはまらないのではないかと思っています」
保護者が抱えやすい悩み
保護者から最もよく聞かれるのが、「何が原因だったのか分からない」という言葉だ。いじめなのか、勉強なのか、発達特性なのか、友人関係なのか。複数の要因が絡んでいることが多く、明確な答えが見つからないまま苦しむ保護者は多い。
そこから、「育て方が悪かったのでは」「もっと早く気づけたのでは」「甘やかしたのでは」と自分を責めてしまう方も。実際には、1つの原因だけで不登校になるケースは少なく、保護者だけが原因ということもほとんどないという。
祖父母や親族から「学校に行かせないのか」「怠けではないのか」と言われ、家庭内で孤立感を抱く保護者もいる。
直人さんは「よく『最近の若いものは』と言われますが、今の親世代の方たちも、若い頃は同じように上の世代から言われていたはずなんです。比べる必要はないですが、子どものことを1番に考えているのは一緒に生活している親御さんであり、養護施設であれば担当の職員です。親世代の声は聞きつつも、真に受けすぎる必要はそこまでないと思います」と話す。
保護者は、子ども以上に将来を心配する。高校進学、就職、自立。「このままで大丈夫だろうか」という不安は長期間続きやすい。ここには、支援の現場でよく起きる「時間軸のズレ」があるという。

「保護者は将来を一気に心配し、子どもはまず今日をどう過ごすかで精一杯。この時間軸の違いが、不安をさらに大きくしている要因になっているのかなと。私たち支援者は、まず安心や生活リズムの安定から積み上げていくようにしています」
不登校が長期化すれば、送迎や見守り、学校との連絡、支援機関との調整といった負担も増え、保護者自身が疲弊し、心身の不調を抱えることもある。
「学校へ行かない選択をした子どもたちの多くは、『学校へ行きたくない』のではなく、『行きたいけれど行けない』『どうしたらいいか分からない』という状態です。保護者も、『学校へ戻すこと』だけを目標にすると苦しくなりやすい。『子どもが安心して過ごせる時間や場所を少しずつ増やすこと』を目標にした方が、前向きな変化につながるケースが多いように感じます」
連携と社会への願い
学校、家庭、そして支援機関。それぞれが同じ子どもに関わっていても、うまく足並みが揃わないことがある。そこには5つの課題があるという。
①それぞれが違うゴールを見ていること
学校は「まずは登校を増やしたい」、保護者は「本人が安心して過ごしてほしい」、支援機関は「自己肯定感の回復を優先したい」、そして本人は「今は休みたい」。
同じ子どもを支援していても、目指すものが異なる場合がある。ゴールが共有されないまま関わると、子ども自身が板挟みになってしまう。
②情報共有の不足
個人情報保護への配慮は必要だが、学校での様子、家庭での様子、支援機関での様子が十分に共有されないことがある。その結果、「学校では無口なのに、他の場所では活発」「家庭では不安定」など、全体像が見えにくくなる。
③支援者ごとの価値観の違い
「無理にでも登校を促すべき」「まず休養が必要」「別室登校で良い」「フリースクールが合う」など、支援者によって考え方はさまざまだ。どれが正しいというより、その子に何が合うかを話し合う場が不足していることが課題だという。
④保護者が調整役になってしまうこと
学校への説明、病院受診、福祉サービスの申請などを、実際には保護者が担うケースが少なくない。結果として、疲弊している保護者が、最も多くの調整をしているという状況が起きやすい。
⑤支援が「点」になりやすいこと
学校は学校の支援、社会は社会の支援、医療は医療の支援と、それぞれが頑張っていても、連続性がない場合がある。今どの段階にいるのか、次に何を目指すのか、どこが担当するのかを共有できれば、子どもも保護者も安心しやすくなる。
「不登校支援では、学校へ戻すことを共通目標にするより、本人が安心して学び、成長できる状態をつくることを共通目標にした方が、学校・家庭・支援機関の連携がうまくいくケースが多いかなと思いますね」
こうした現場感覚を踏まえ、社会や制度に対してもいくつかの願いがある。
1つは、「学校に行く」以外の選択肢がもっと認められてほしいということ。
フリースクールや教育支援センター(不登校の子どもが通える公的な学びの場)、オンライン学習、居場所支援など、選択肢自体は増えてきているが、地域による差はまだ大きい。学校復帰だけでなく、その子に合った学び方や成長の仕方を選べる社会になってほしいという。

もう1つは、保護者支援の充実だ。保護者相談やレスパイト(介護や育児をする人が一時的に休息を取れるようにする支援)、ピアサポート(同じような経験をした人同士が支え合うこと)、経済的支援など、子どもを支える保護者が疲弊してしまえば、長期的な支援は難しくなる。
「学校に行けば給食があり、夕方は子ども食堂がある。ただ、学校へ行かない場合、お昼ご飯をどうするか問題になる。だから私たちは、毎月一度は調理実習を設けて、自分たちの作りたいものを買い物から行って作って食べることをしています」
学校は教育、福祉は福祉、医療は医療と制度が分かれているが故に、保護者が各機関をつなぐ役割を担わされることも少なくない。関係機関がもっと自然に情報共有し、チームとして支援できる仕組みが求められている。
また、「不登校=失敗」という見方が減ってほしいという願いもある。
高校から再スタートする子、通信制高校で力を発揮する子、社会に出てから才能を開花させる子もいる。不登校を人生の終わりではなく、人生の1つの過程として見られる社会になれば、子どもも保護者も追い詰められにくくなる。
最後に挙げるのが、支援の「量」だけでなく「質」への視点だ。子どもの声を聴ける人材、保護者を支えられる人材、学校と福祉をつなげられる人材を育てることも、制度を増やすことと同じくらい重要だという。
「子どもは『教育の問題』『福祉の問題』と分けて生きているわけではありません。学校、家庭、放課後等デイサービス、訪問看護、医療機関、地域が自然につながる仕組みができれば、保護者の負担も大きく減るはずです」
不登校は失敗でも特別なことでもない
直人さんにこれからの展望を尋ねると、こんな言葉が返ってきた。
「教育、福祉、医療、それぞれが連携するというのは、もう世の中ではできつつあるかなと思います。1人ひとりに合ったオーダーメイドな支援や教育など、その子に合ったやり方が、社会に増えていけばいいなと感じますね」
子どもたちを支えるだけでなく、保護者が安心して相談できる環境づくりにも力を入れていきたいという。
この考え方の背景には、北欧の教育制度から得た気づきがあるそうだ。デンマークやスウェーデンには「フォルケホイスコーレ」という制度がある。学校を卒業したあと、自分が本当に何をやりたいのかをじっくり考えるための、いわゆるモラトリアム期間を過ごせる学びの場だ。
日本の学校教育の基本的な仕組みである「6・3・3制」(小学校6年、中学校3年、高校3年という区切り)については、こう考えている。
「日本人の平均寿命は伸びていますよね。それなら、6・3・3制でなくてもいいのでは?と思います。ゴールが伸びている分、スタートを遅らせてもいいよねと」
保護者にとって、子どもが学校に行かない選択をしていることへの将来不安は大きい。だが、今の時代は1つの会社に勤め続けることが当たり前だった時代とは違う。
「不登校と言われるのは、10代後半ぐらいまで。子どもの人生を野球に例えたら、1回の表と裏なんですよ。そこで大量失点したとしても、人生90年、いくらでも逆転できます。初回に点を取られたからといって、諦めるスポーツ選手はいないよと伝えたいです」
この考え方は、そのまま保護者へのメッセージにもつながっている。
親が抱く「この子は大丈夫かな」という気持ちを、子どもは敏感に感じ取っているからだ。だからこそ、まず大人が笑顔でいることが、子どもの安心につながると考えている。
不登校は、失敗でも特別なことでもない。今やどの家庭にも起こり得る、身近な出来事だ。
学校に行かないという選択をした子どもたちの心の畑を、時間をかけて耕し、種を蒔き、水をやり続ける人がいる。そしてその隣には、同じように悩み、迷いながら子どもと向き合う保護者たちがいる。
前編・後編を通して伝えたかったのは、「子どもを支えるために、まず大人が孤立しないこと」。学校、家庭、支援機関、そして地域。1人で抱え込むのではなく、頼り合える場所が少しずつ広がっていくことを願いたい。
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この記事を書いた人

フォスター詩織
Kotonohaメディア代表。声なき声をすくい上げ、社会へ届ける活動を軸に執筆を行う。多様な生き方と価値観を尊重し、共感と気づきを生む記事制作に尽力中。
